スポーツを入り口に、誰もが自然と混ざり合える社会へ

今回の「まちのストーリー」では、障害のある子どもたちを中心にインクルーシブなスポーツ活動を展開する「東近江FCレジリエンス」を運営する高橋平(たかはしたいら)さんにお話を伺いました。サッカー指導歴25年、保育士やバックパッカーとしての経験を経て、自身も車椅子ユーザーとなった高橋さん。その半生と、地域を巻き込みながら広がる活動、そして「誰もが自然と混ざり合える社会」を目指す展望について語っていただきました。
保育士、バックパッカー、そしてサッカー指導者へ
高橋さんは和歌山県生まれ鳥取県育ちで、その後島根県に移り、保育士として勤務されました。その後、約3年間バックパッカーとして日本、世界を巡った時期もあったといいます。さまざまな土地を訪れ、多様な人と出会う中で得たものが、その後の活動の土台になっているようです。
サッカー指導との出会いは、小学生のサッカーコーチを勧められたことがきっかけでした。そこから指導を続け、今年で25年目を迎えます。保育士としての経験と、サッカー指導者としての経験が、後の「東近江FCレジリエンス」の活動へとつながっていきます。
車椅子ユーザーとなった経緯
高橋さんの活動の原点には、自身が車椅子ユーザーとなった特異な経験があります。仕事の紹介やプライベートのつながりから滋賀県に移住された高橋さんは、工場での勤務中に不慮の事故に遭ってしまい一時は心肺停止になりましたが奇跡的に生還されました。
「レジリエンス」設立とインクルーシブスポーツの実践
こうした歩みの中で、工場勤務から退き、6年前に高橋さんが立ち上げたのが、子ども達が本当にやりたいことができる世界を目指す団体「東近江FCレジリエンス」です。
東近江FCレジリエンスでは、障害のある子どもたちを中心に、保護者や一般の子どもたちも含めたインクルーシブなスポーツ活動を展開しています。サッカーを軸に、参加する子どもたちに合わせてルールを柔軟に調整しながら実施しているのが特徴です。また滋賀・京都・大阪の障害をもつ子ども達による国内初のサッカーリーグ「関西レインボーリーグ」も立ち上げられました。

広がる活動――女性サッカーチーム、スポーツアカデミー、カフェ
高橋さんの活動は、障害のある子どもたちへの支援にとどまりません。「サッカーをやりたい」という素人の“おばちゃん”たちの声をきっかけに結成された女性サッカーチームは、最初はわずか3人でしたが、現在では30〜40人規模にまで成長しました。障害のある子どもの保護者が「私もやりたい」と参加するなど、世代や立場を越えてつながる場になっています。
保護者が抱える4つの悩みと、「入口」としてのスポーツ
放課後デイサービスの運営などを通じて、高橋さんは障害のある子どもの保護者に共通する大きな悩みを、次の4つに整理しています。
・障害者手帳を取得するかどうかという選択
・就学先・進学先の選択(合理的配慮をめぐる難しさもここに関わってきます。)
・卒業後に作業所を選ぶか一般就労を目指すかという選択
・生活の場の選択と、保護者が亡くなった後のことという、答えの出しにくい問題
高橋さんは、スポーツはあくまでこうした根本的な悩みに向き合うための「ツール」であり「入口」だと語ります。スポーツという場を通じて保護者同士がつながり、「助けてって言っていいんや」と思える環境をつくることこそが、活動の“本質的な目的”だといいます。日本社会には「自分の家のことは自分でする」という意識が根強く、困っていても助けを求められない保護者が多い現状があります。

目指すのは「アダプテッド・スポーツ」という社会
高橋さんは、現状のインクルーシブ教育について、「多数側が少数側を受け入れてあげる」という上から目線になりがちで、本当の意味でのインクルージョンにはなっていないのではないか、という問題意識を持っています。ヨーロッパでは障害のある人とない人が対話しながら共に仕組みをつくっているのに対し、日本では少数側の意見が反映されにくい傾向があるとも指摘します。
この問題意識は、オランダ・ドイツ・北欧などへの海外研修の経験を通じて、より具体的な手応えへと変わっていきました。クラウドファンディングで研修費用を工面しながら現地の教育現場を視察する中で見えてきたのが、「アダプテッド・スポーツ」という考え方です。ヨーロッパでは、「パラスポーツ」「障害者スポーツ」という区分そのものをなくし、一人ひとりに合わせてルールをデザインする「アダプテッド・スポーツ」として統一していく方向に進んでいるといいます。


高橋さんが見据える最終的な目標は、障害のある子ども専用のスポーツクラブがわざわざ存在しなくてもよい社会、つまり一般のスポーツクラブで誰もが自然に受け入れられる状態です。「生きているうちには難しいかもしれない」と語りながらも、これを長期的なビジョンとして掲げ続けています。
地域コミュニティ全体で支える「母台」を目指して
高橋さんが目指しているのは、レジリエンスという一つの団体だけで障害のある人たちを支えることではありません。特別な団体だけに頼るのではなく、地域コミュニティ全体で自然に支え合える「母台」をつくっていくことだといいます。
「わざわざ障害者スポーツクラブをつくらなくてもよい社会」を目指して高橋さんの挑戦は続いていきます。地域の中で、スポーツを入口に人と人がつながっていく取組は、これからも東近江市に広がっていきます。

高橋さんの活動
★東近江FCレジリエンス
★JYUYON14ACADEMY
★SPORTS BAR&CAFÉ JYUYON



